EGOISTE



それでも友達で居てくれるだけで十分だ。


幸いここは病院だ。空手有段者の水月のパンチをくらってもすぐに治療できる。



水月は俺に近づくと、俺の胸倉をぐいと掴んだ。


こいつにしてはいささか乱暴なそぶりだったが、ここで妙な仏心を出されても俺の心はすっきりしない。




さぁやれよ!!



ガツン!と一発……




なんて思いながらぎゅっと目を閉じると、水月は掴んだ腕を持ち上げてぐいと俺を引き寄せた。


うぉ!結構力あるな…


なんて一瞬の間に考えると、唇に柔らかい感触を受ける。




確かめるまでもなく、それは水月の唇だ。


ほんの一瞬、触れるだけの優しいキス。


唇が離れると、水月は俺の胸倉から手を離した。





「これでおあいこ」





ちょっと赤くなった顔で小さくウィンクすると、


「僕ともしたから、これで雅とのキスはチャラね。もうあのキスは忘れて?」





俺はびっくりして目をまばたいた。


体が金縛りにあったように固まった。






やっぱすっげぇ男だよな。



お前は……




そう囁いて、俺はほんの少しだけ笑った。






心からの笑顔だった。







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