EGOISTE



キス―――


そうか…そうだった………


入院やら水月との仲直りで、すっかり頭から抜け落ちていた。


つまりはそれ程のことってことで。


俺が心配してたのは、こいつじゃなくて、水月のことだけだった。


「水月は……怒ってた?」


その口ぶりからするに、水月は鬼頭に怒ったわけじゃなさそうだった。


俺は雑誌から目を離すと、鬼頭の小さな背中を見て目を細めた。




「すっげー怒ってた。胸座掴まれた」




「へぇ……やるね。水月も…」


ふふっ、とちょっと控えめな笑い声が聞こえて、何でかなぁ俺は安心したんだ。


鬼頭としても……


やっぱり何でもない振りして、流されるのが一番嫌だよなぁ。


想っていてほしいとか、嫉妬して欲しいとか当たり前の感情だ。


鬼頭もそんな普通の感情を持ち合わせてたんだな。





「ところで、お前何やってンの?」


「夏休みの自由課題のレポート。ここでやっちゃおうかって思って」


鬼頭が振り向いた。


黒くて長い髪が揺れる。


そこから芳しい香りがふんわりと香ってきた。




その香りの中、鬼頭の穏やかな表情が浮かび上がり




俺もちょっと笑った。








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