EGOISTE
病室の独特の消毒液の匂いに混じって、カツ丼の油の匂いが鼻腔を刺激する。
息をするたびに、胃液が込み上げてきそうだった。
「ねぇ先生は国家試験のとき、やっぱカツ丼食べた?勝負に勝ちますようにって」
と、楠の隣で大人しくカツ丼をつついていた鬼頭が、可愛らしいことを言い出した。
鬼頭でもげんを担ぐことあるんだな。
俺はふっと冷笑を浮かべた。
そんなこと・・・・・・
「食ったに決まってるじゃねぇか」
「「やっぱり」」
と鬼頭と楠が声を揃える。
「先生って意外に迷信深いところあるんだよね。古臭いって言うか」
カツ丼を頬張りながら、鬼頭が面白そうに笑う。
悪かったな。古臭くて。
「夜に爪は切らない、とか。朝の蜘蛛は見ても潰さず逃がす、とか」
「あー、気にしてそう。しかも先生今年厄年じゃん!」
楠が思い立ったように、俺を見上げてくる。
え?そーだっけ??
そうか・・・厄年か・・・だから色々ついてないんだなぁ。
でも・・・
「気をつけるっても、もう遅いっつうの。ってかお前は?何でカツ丼なんか食ってンだよ??これから勝負か?」
俺の質問に楠は忙しなく動かしていた箸をちょっと休めた。
目だけを上に上げて瞬きをし、そして僅かに伏せると小さく吐息をついた。
「うん・・・お兄の浮気相手と・・・・・・今から戦ってくる」