EGOISTE


鬼頭はしばし休めていた箸を動かしながら、カツ丼のカツを取った。


「そしたら?」


「うん・・・・・・そしたら、妹でしょ?ありえない!!気持ち悪い。とか色々言ってた。挙句の果て明良とエッチしたとか言い出す始末」


「はっ」と鬼頭が吐き捨てるように一言漏らす。


鬼頭は何もかも知ってるからなぁ。って、俺もだけど。


ほんっと楠 明良もバカ。


「あたし浮気されてたこと…やっぱり心のどこかで疑ってた。だからその人の言葉聞いて、ああ、やっぱりか…って妙に納得しちゃったんだよね」


「………」


鬼頭は黙っている。


俯いて、カツ丼に視線を落としている。


まるで諸悪の根源がそこにあるかのように、睨んでさえいるような視線だ。


鬼頭が何も言わないので、俺が口火を切った。


「血が繋がってないことちゃんと説明したのか?」


「したよぉ。それでも、ありえないって。彼女はあたしで明良お兄はただのシスコンだって」


まぁそう言ってくるのは分かる。


普通に考えりゃ、その浮気相手の考えの方が正常だ。



「それで今日話し合いしてくる」


と楠はまるで他人事のように、さらりと言ってにっこり笑った。


取って付けたようなぎこちない笑みだった。


明らかに無理をしているのが分かる。


「で、げん担ぎにカツ丼?」


「そ」


「お兄はそのこと・・・・・・」


「知らないよぉ。言うわけないじゃん」


「何で・・・なんでお兄を責めないの?だって嘘付かれてたわけでしょ?」


鬼頭が探るように目を上下させる。


「うーん・・・そりゃ、最初は腹が立ったけど・・・それよりも今は目先の敵に目を何とかしなきゃ。明良お兄を責めるのはそれから」


楠の言葉は一言一言に魂が宿っていた。


傷ついてはいるだろう。ショックも受けてるだろう。




でもその視線は揺るぎなかった。







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