EGOISTE
医師
それから15分程でカツ丼を食い終わると、「さて。そろそろ行かなきゃ」と腰をあげた。
鬼頭も楠と帰るつもりだったらしく、歩けない程でもない俺は二人を入り口のロビーまで送ることにした。
せっかく来て貰ったのに、病室で「あばよ」じゃ、ちょっと味気ない気がしたから。
と言うか、俺の方が寂しかったのかもしれない。
二人が帰って、急に静かになる病室で一人で居るのが寂しいのかもしれない。
下へと降りるエレベーターを待っている最中、見たことがある顔ぶれの男二人と鉢合わせた。
二人組みの男で、白衣でなく白いスタンドカラーの半袖ユニフォームを着ているからにインターンで医務にあたっているのだろう。
向こうも俺を見て、「おや?」という感じに首を捻っていた。
誰だったかな??
医学部時代の友人?
思い出せず首を捻っていると、向こうの一人が先に「あ!」と声を出した。
「あれ…植村さんの元カレじゃね?」
ひそひそと喋って、もう一人の袖を引っ張りながら、俺を見る。
元カレ…ってまぁそうだけど!
と思ったと同時に俺も思い出した。
千夏と別れ話をした居酒屋で、隣の席に居た男たちだ。
「ほんとだ…」
男たちは俺を見るとニヤニヤ。こそこそとこっちを見て喋ってる。
「植村さんと別れてもう新しい女かよ。何でこんなところにいるんだ?」
「でも、あれどー見ても女子高生じゃね?援交??ロリコン?」
「入院でもして、植村さんの気が引こうと思ってるんじゃね?」
「だっせ」
…………
「……悪りぃな」
俺だけじゃなく、鬼頭や楠のことをとやかく言われる筋合いはない。
俺は二人に小さく謝った。
「何あれ?」
と楠はいきりたってたし、鬼頭は目を固く閉じて微動だにせずに居た。
両手をグレーのパーカーのポケットに突っ込み、まるで人形のように少しも動かなかった。
鬼頭を取り巻く空気が、まるで刃物のように尖って冷気を帯びていた。