EGOISTE
「悪かったな、不釣合いで」
俺は眉間に皺を寄せると、ちょっと鬼頭を睨んだ。
鬼頭はたじろいだ様子もなく、ちょっと顎を引くと意味深に笑った。
「光源氏はねぇ、美男子でとにかく恋多き男だったんだよ」
「みたいだな」
美しい絵物語。なんて言うけど、用はプレイボーイの話だってことぐらい俺にも分かる。
「継母の藤壺から始まって、正室の葵、六条、紫、夕顔、空蝉、花散る里、末摘花、朧月夜、明石、玉鬘、秋好む中宮、女三宮…」
「待て!待て待て待て。そんっなにいるのかよ」
どんだけタラシだよ。光源氏っつうのは。
「でも朝顔とは手紙のやりとりだけ。文通で恋を詠って、手紙の中で語り合うだけの清い仲だったんだよ」
「清い……ねぇ」
「あたしも朝顔の君は結構好き。彼女は光源氏のことを愛していたけど、光源氏のたくさんの恋人たちと寵を競い合うことが嫌で、光源氏との結婚を拒み続ていたの」
誰かと似てない?
鬼頭は頬杖をついて、ちょっと意味深に俺を見上げてきた。
黒曜石のような深い黒色が俺の考えを読み取ろうとしている。
俺は目を逸らした。
考えを読み取られないように。
「俺はそんなに恋人がいねぇよ。大体そんなに器用じゃないんでね」
「それもそうだね」
鬼頭は小さく笑って、頷いた。
「朝顔の人柄って、どことなく千夏さんに似てるよね。
聡明で綺麗で上品で……でも恋にはとことん臆病なとこ」