EGOISTE


朝顔は―――夏の花だ。


千夏…………





朝顔がそのあとどうなったのか鬼頭に聞いてい見ると、その女は光源氏を拒み続けて、とうとう恋を成就させることはなかった、ということだった。


光源氏を心の底から愛していたのに…


頑なに拒まれて、光源氏も諦めたってわけらしい。


俺と千夏にちょっと重なる部分がある。


そう言えば俺は、千夏に面と向かって「もう嫌いになった」とは言われていない。


往生際が悪いかな。


もし……


もしもだよ?



もしもまだ千夏が少しでも俺を好きで居てくれたら、俺たちはまだやり直せる―――?


光源氏のように諦めなかったら、彼にでき仰せなかったことを俺はやり遂げられる?


古くから語り継がれている恋物語にも勝る恋愛を―――





って柄じゃねぇよな、俺は。





わかんねぇな。




―――もしそうだとしても、俺はやり直す術を知らない。




ずっと思いつかないままだったら……




このまま……



このまま俺たちは別々に道を行くしかないのか?






歌南のときのように。



いずれ時が解決してくれるのだろうか。



そんなの嫌だな―――





「光源氏もバカ。ついでに言うと先生も……ね」



鬼頭はちょっと意味深に笑うと、頭の後ろで腕を組んだ。






「女の人を手に入れる術ってのは実に簡単なんだよ」





簡単に言うけど、それがわかんねぇから苦労してんだろ。




俺も―――光源氏も―――





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