EGOISTE
百合
そのあとも鬼頭は源氏物語の話を小一時間程聞かせてくれた。
うんざりするような恋の遍歴に、ってかお前の人生恋愛だけしかねぇのかよ!って思わず突っ込みたくなる。
一通り話し終えたのか、鬼頭は満足すると「帰るワ」と腰を浮かせた。
例のごとく1階ロビーまで送る途中のエレベーターの中で、
「お前何しに来たの?まぁこっちとしては暇つぶしにはなったけど」
「その暇つぶしに付き合ってあげたんでしょうが。ありがたく思ってよね」
ふぅ、と吐息を吐いて鬼頭は肩を竦めた。
「お・前・は~!」
鬼頭の減らず口は今に始まったことじゃないけど、それでも時々無性に腹が立つことがある。
俺は鬼頭を睨み降ろすと、鬼頭はあかんべぇと舌を出していた。
こいつ!マジで殺してぇ。
そんな会話を繰り出してると、俺のすぐ近くでクスクス笑う声が聞こえた。
「ごめんなさいね。あまりにも楽しそうにしてたから」
振り返ったのは、50ぐらいかな?上品な感じの和服が良く合う女だった。
黒い髪もきっちり結い上げてあって、まさに貴婦人。
大きな白い百合の花束を抱えている。
誰かのお見舞いに来たのかな?そんなことが伺い知れた。
「仲が良い兄妹ですね」
何を勘違いしたのか貴婦人がほがらかに笑った。
笑い方も上品だ。
だがしかし!俺にこんなふてぶてしい妹が居てたまるかってーの!!
「兄妹じゃありません」俺はどキッパリと言い放った。
「あら、じゃぁ親戚?」
「いえ、この人との関係があるとしたら唯一無関係です」
とこれまた鬼頭がどキッパリと言いやがった!
「おい!」俺は思わず鬼頭に突っ込みを入れる。