EGOISTE
もっと気の利いた言葉を探そうと思ったけれど、俺の頭の中は空っぽだった。
空虚の中で時間だけが過ぎていく。
「……背、高いのね。いくつぐらい?」
婦人が唐突に笑った。その笑顔はどことなくぎこちなかったけれど、無理やり作っているという感じはしなかった。
「……184…や、3かな?たぶんそれぐらいです」
「そう。歳は?いくつになるの?職業は?何をしてらっしゃる人?」
「25……です。今は高校で保健医をしてる…」
「……そう。うちの息子と一緒ね」
婦人はちょっと儚げに微笑んだ。
「………あの!」
俺が何か言おうと声を出したとき、婦人は唐突に俺の胸に百合の花束を預けてきた。
花粉はきれいに処理してあるのにも関わらず、そのカサブランカから芳醇な香りが漂ってきた。
「これ…貰ってくれる?」
「―――え……?」
「“息子”に」
そう言って婦人は目一杯顔に笑顔を浮かべた。切れ長の瞳に涙の雫が浮かんでいる。
差し出された百合の花束を受け取る際に、偶然婦人の小さな手に少し触れた。
白くて華奢で―――でもその手からは、想像以上の体温が感じれた。
婦人は俺の手を少しだけ握り返してきた。
「冷たい手ね」
「―――あ、まぁ。これ(点滴)を刺しっぱなしだから」
予想もつかなかったことに、俺はまるで見当違いの言葉を返すしかできなかった。