EGOISTE
二人きりの病室…
思えば楠と二人きりになることなんて、水族館のあの日以来だな……
楠、勝負はどうなった??勝ったかぁ~?
なんて心の中で問いかけてみる。
届きやしないのに。
でも、楠は柔らかい手で、俺の手を握ってきた。
やっぱ違う。鬼頭のそれとは―――
感触も、体温も…
ただ単に握っているだけかと思いきや、俺の掌には固い何かの感触が握らされていた。
「王将、返すね……」
楠は笑った。いや、笑ったように―――聞こえた。
「ありがと…。あたしがんばったよ…明良の彼女はあたしですって正々堂々言い切った。
勝ったとか、負けたとか…よく分からないけど、あたしの気持ち全部伝えれた」
先生のお陰…先生が勇気をくれたの……
いっぱい、いっぱい応援してくれてありがとね。
そう言い置いて、楠が顔を近づける気配があった。
そうか…良かったな。がんばったな、お前。
俺も心の中で返す。
でも……
お前近すぎじゃね?
近い近い……
ほんの僅か……鬼頭とは違った、甘くて芳醇な香りが鼻腔をくすぐった。
その香りをじっくり感じる間もなかった。
楠の唇が俺の唇にそっと重なったのは。