EGOISTE
心配する水月を、鬼頭がまるで支えるようにして二人は病室をあとにした。
「…何かあったら連絡する」短くそう言い置いて…
だけど、表情はどことなく強張っていた。
「ああ、頼む。俺からも連絡してみるから。何かあったらそっちに連絡するよ」
「うん」
何もないといいけど…
去っていく鬼頭の背中がそう物語っていた。
誰もが心の中に抱いている不安。だけれど、誰もが口には出せなかった。
言ってしまうと最後…歌南が消えて無くなりそうだったから。
その日は消灯ぎりぎりまで、俺は何度も公衆電話と病室を往復した。
短い呼び出し音の末、結局流れてくるのは虚しい留守番電話の応答メッセージだけ。
無機質な機械音を聞きながら、肩を落胆させ病室に戻る。
その日は言うまでもなく、全く眠れなかった。
いや、眠らなかったといった方が正しいのか。
夢で、また歌南の姿を見るのが
怖かった―――
次の日も検査や何やらで、ゆるゆると時間は過ぎていった。
依然、歌南とは連絡が取れない。水月からも何の連絡もない。
俺の心配とは反対に胃潰瘍の方は、着々と治りつつある。
妙な不安と、緊張を紛らわすため、俺は隣のじいちゃんと将棋を何ゲームと繰り返したが、結局勝てることはなかった。
そしてまた不変的な夜がやってきた。
夜10時。消灯間際のことだった。
「先生」
鬼頭が病室に姿を現した。