EGOISTE
こんなこと…許されねぇな。
勢い良く病室を飛び出たものの、暗い病院の廊下を歩きながら、俺は見つかったらどうしよう、と不安を覚えていた。
後ろ暗いことをするときって、どうしてこう腰を落とすんだろうな。
俺は中腰になりながら、そろそろと忍び足で歩いていた。
隣で同じように大人しくついてきた鬼頭が、囁くように聞いてきた。
「ねぇ…歌南さんの子供って…」
「あ?俺のガキじゃねぇよ」
「…だよね。計算が合わないし」
「……どんなつもりで堕ろそうって思ったんだろう……」
鬼頭はそれがまるで解けない数式に頭をこまねいているみたいに、ちょっと悩んでいる。
「知るかよ、そんなん…」と言って前を向き、俺は足を止めた。
暗い廊下の赤い非常灯の下に、ぼんやりとした白い人影が浮かび上がっている。
「―――千夏………」