EGOISTE
……
――――
くわえたタバコの先がくすんだ灰へと変わっていく。
ぼろりと落ちて、その残骸は目の前に広がる海の水面に吸い取られていった。
天気の良い昼下がりで、時期がまだ早かったせいもあり海岸は人がまばらだった。
すぐ近くに白い灯台が建っていて、その周りを囲む金網に大小形の異なる南京錠がいっぱいくっついていた。
まだ真新しい一つを手に取ると、「エミコ ナオユキ」と名前が書いてあった。他の南京錠にも同様名前や、「ずっと一緒に居られたらいいね」などのメッセージが書かれたものもある。
ここは恋人たちのデートスポットのようだ。
この海岸が地元で『恋人岬』と呼ばれている所以だろうか。
歌南とそこへ行ったのは、俺たちがまだ恋人同士と呼び合える仲じゃなかったとき。
俺の猛アタックも、歌南に軽々交わされそろそろ潮時かな、と若干諦めモードが入っていた俺。そんなとき、歌南から
「連れていって欲しい場所があるの」なんて言われて、一緒に来たっけ。
『恋人岬』って言われてるわりには、海はあまりきれいとは言いがたかった。
俺がタバコを吸っている隣で、歌南は眩しそうに目を細めて俺を見る。
俺は何故歌南がこの場所に来たかったのか分からなかった。
けれど理由は聞かなかった。
白い日傘を差して、同じぐらい白くて足首まである長いスカートがふわりと風で揺れた。
「ねぇあたしが死んだら、この海に灰を巻いてくれる?
そのタバコの先みたいに」
―――波の音。潮風。空の色。海の色。
すべてがぐるぐると俺の記憶の中で周りながら、それでも一番鮮明に覚えていたのは歌南の白いスカートの端だった。