EGOISTE
「は?やだよ」
俺は呆れたように唇を尖らせた。
「かわいげのないガキねぇ。そう言うときは素直に『うん』って答えるものよ」
歌南がちょっと眉をひそめる。
「うっせ。俺が素直に『うん』って頷くキャラか?」
「まぁ確かに」歌南はちょっと笑うと、何かを考えるように首を傾けた。
「それじゃあさ、質問を変えるわ。
あたしがもし色んなことに疲れちゃったら、ここであんたはあたしと一緒に死んでくれる―――?」
歌南の質問の意味は全く理解不能だった。
俺はタバコをくわえたまま、ジーンズのポケットに手を突っ込んだ。
「は?益々意味不明。分かったとしても、俺はごめんだね」
俺の答えに歌南は意味深にちょっと笑った。
「あたしのこと好きだって言ったくせに、一緒に死ぬ勇気がないの?」
俺は肩をすくめた。
「それとこれとは別だろ?恋愛感情と、生死の密接な繋がりなんてないぜ?それに俺は医者を目指してる。そんな人間が死を選ぶこと自体、背徳だ」
歌南はくすっとまたも小さく笑った。ただ、その笑いは俺をバカにした笑みではなく、本当に面白い話を聞いたというものだった。
「俺は…そうだなぁ。あんたがそう思ったとき、一緒に死を選ぶんじゃなくて、辛くても生き続けることを説得させるね」
そうねぇ。歌南はのんびりと答えた。
「あんたやっぱりおもしろいわ」
歌南はいたずらっこのように無邪気に笑い、俺の口からタバコを抜き取った。
歌南の纏ったエゴイストが潮風に乗ってふわりと香ってくる。
海独特の匂いに混じって、色っぽく、とても爽やかな香りだった。