EGOISTE


「じゃ、これは?」


こちらを挑発するように目だけを上げ、歌南は俺に口付けした。


突然のことにびっくりして、目を閉じるのも忘れたぐらいだ。


それぐらい衝撃的だった。


ずっと恋焦がれていた歌南との始めてのキスだ。


いや…どの流れでそーなるの??冷静な俺が心の中でそう突っ込みを入れる。


「やぁだ。キス初心者??」


歌南はなんでもないようにカラカラ笑うと、俺の額をちょっと指で弾いた。


「んなわけあるか。あんたが不意打ちなんだよ」


ムスっと仏頂面を浮かべ、俺はふいと視線を外した。


歌南が放ったタバコが地面に転がっていた。まだ完全に消えきっていない先を俺はちょっと靴底を押し付け、消し去った。


なんだか無性に腹が立って、俺は顔を上げるとすぐ近くにあった歌南の肩を抱き寄せた。


強引に掻き抱いて、俺の唇に合わせる。


角度を変えて何度も何度も口付けをした。舌を滑り込ませると、歌南もそれに応える。


波の音を耳の奥で聞いて、俺は唇を離した。


「なぁ俺と付き合わないか?」


何度繰り返した言葉か。


そして歌南は言う。


「い・や」と一言。


……のはずだった―――




「そうねぇ。キスの相性も悪くないし。いいかもね」



このとき歌南は指をちょっと唇に当てると、小悪魔のように笑った。


「ただし約束して?」


「約束?」







「そ。あたしが死にたくなったら、あたしが生きるように説得して」







そう言った歌南の顔は俺が今まで見た中で、一番きれいで一番輝いていた。







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