EGOISTE
死神
夜の闇を吸った暗い水面を見つめながら、歌南はただじっと佇んでいる。
歌南は長い丈の黒いスカートをはいていた。上は黒いタンクトップ。
長い黒髪やスカートの裾が、風にゆらゆら揺れてその後姿が
まるで死神のように見えた。
死が歌南を連れて行こうとしているようで、俺は少しだけ身震いを覚えた。
どこもかしこも黒い景色のなか、白い二の腕に掘られた赤いタトゥーだけが、色をなしている。
そこだけが妙に現実めいていた。
俺が灯台に近づくと、砂利を踏む音で歌南がゆっくりと振り返った。
風でなびく長い髪を押さえながら。
潮の香りに混じって俺の鼻腔をくすぐったのは。
あの日と同じ
EGOISTE
「よう」
何て声を掛けていいのか分からず、俺は当たり前のように…久しぶりに会う友人に掛けるような言葉を歌南に向けた。
歌南はちょっと赤い唇に笑みを湛え、
「あら。どこの色男かと思えば」
と言ってちょっと微笑んだ。