EGOISTE
「お前、何してんだよ」
歌南のあまりにもいつもと変わらない態度に、俺の考えが全て間違いだった気がする。
水月や千夏を巻き込んだことを急に恥ずかしく思った。
「何って、海を見に。ね」
歌南は少しだけ微笑むと、視線をまた海に戻した。
「風邪引くぜ」
呆れたように言って、俺はジーンズのポケットに手を突っ込んだ。
歌南は振り返らなかった。
俺の言葉に何かを返してくることもなかった。
「どうして一人でこんなとこまで来たんだよ。水月にでも連れてきてもらったらいいじゃねぇか。
大体、何も言わずに消えるなよ。俺たちがどんだけ心配したか…」
こんなことを言いたいわけじゃない。
もっと気の利いたことを喋りたかった。だけど言葉は出てこない。
歌南がゆっくりと振り返る。
少し強い風が吹いて、俺らの前を横切っていった。
風に舞う砂に思わず顔をしかめ、手で顔を覆い、止んだところでその手を退けると
歌南は無表情にこちらを見ていた。
横切った風に表情をさらわれてしまったように
その顔からは何の感情も読み取れなかった。