EGOISTE
俺はちょっとポケットに手を突っ込んだまま、歌南を見据えた。
俺はこんな女知らない。
いつでも我が道を行く。些細な男の言動や行動に左右されない。
まるで風のように颯爽に、自由に―――
俺はそんな歌南が好きだった。
今はその影がなりをひそめている。
「ティムはね…あ、旦那のことだけど。彼はあんたと正反対の人だったわ」
思い出を愛しむように、歌南は頬をちょっと緩めて話し出した。
俺はこのとき初めて知った。
歌南の旦那はティム・アベルと言うらしい。
「背が高くて、目つきが鋭くて、強面で。刑事なんてやってるくせに、どっちが犯罪者か分からないぐらい人相が悪いの」
鈍い瑠璃色に染めあがった空を見つめ、再び口を開いた。
「でも愛してた。
どうしてあたしを残して逝っちゃったのかなぁ」
どうして……
最後の囁き声は風にさらわれ、俺の耳元まで届かなかった。
だけど歌南の赤い唇がそう動いたのは確かだった。