EGOISTE
「……っふ…」
歌南は小さく声を漏らし、やがて頭をうな垂れた。
俺の掴んだ腕や肩が細かく震えて、嗚咽が聞こえてくる。
泣いている―――のだと分かった。
俺が怒鳴ったことに対しての悲しみじゃないだろう。
自分の置かれている状況を……今やっと冷静に分析できたからじゃないか。
歌南は頭の良い女だ。ものの良し悪しを分別する考えを持ち合わせている。
俺はゆっくりと歌南から手を離した。
掌を見やると、ほんの少し熱を持ったように熱かった。
まるで俺の中の怒りや悲しみを、現しているかのように。
それが徐々に…徐々に冷めつつある。
俺は泣いている歌南の頭に手を乗せ、軽く撫で上げた。
「約束を―――
果たしに来た」
俺の言葉に歌南は顔を上げ、涙を浮かべた茶色い瞳を俺に向け―――
やがて俺の胸に突っ伏し、声をあげて泣いた。