EGOISTE
シャワーからあがると、千夏はドレッサーに腰かけて、ケータイで電話をしていた。
「―――そう…そう言うわけで、こっちで一泊していくから。チーフには上手く言っておいて―――うん、分かった。ごめね」
通話を切ると、ゆっくりと頭を上げ俺を見上げる。
「同僚にかけてた。あたしが抜けてきたことごまかしてもらうつもりで」
「…そっか」
同僚と言うのが女なのか、男なのか気になった。
たとえ男だとしても、俺にはあれこれ言う資格なんてないのに、それでも気になりだすと醜い嫉妬心が首をもたげ、俺を苛立たせる。
頭に乗せたバスタオルで頭を乱暴に拭うと、俺は無言でベッドに腰掛けた。
千夏はドレッサーの前で鏡に向かい、髪を櫛でとかしている。
染めていないまっすぐの、つやつやした黒髪だ。
勤めている病院側が厳しくて、染髪は禁止されていることに対して千夏は口を尖らせていた。
でも俺はその黒い髪が好きだ―――
あのしっとりと手のひらになじむ感じがすごく好きだ。
そんな後姿をぼんやりと眺めていると、もう一度千夏のケータイが鳴った。
びくりと肩を揺らし、千夏がケータイを手に取る。
そしてケータイのディスプレイを見て、ちょっと悩んだのち、千夏はケータイをテーブルに置いた。
その後コールは長いメロディを流し、やがて消えた。
千夏の反応から見て、その相手が
男だということが分かった。