EGOISTE


「なんで取らないの?」


こんな意地悪を言いたかったわけじゃない。でも心がざわついて、気持ちを制御できなかった。


鏡の中で俺は千夏をまっすぐに見据えていた。彼女も俺の視線を鏡の中で感じ取り、やがて目を逸らした。


「…別に、大した用じゃないわよ」


「分からねぇだろ?緊急の用かもしれねぇし」


「緊急の用を伝え合う仲じゃないわよ」


千夏がちょっとため息を吐き、呆れたように俺を振り向く。


「はっきり言ってよ。あたしに誰かそう言う人が居るのかって」


虚をつかれように、俺は目をみはった。


歌南の件に付き合ってくれたから、ちょっとは気を許してくれてるのかと思いきや、また距離が遠のいた気がする。


俺は千夏の、こんな棘だらけの言葉を聞いたことがない。





「…………男?」





かろうじて言えた言葉がこのたった一言だった。





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