EGOISTE
俺は完全に固まった。
俺の中に流れている時間だけが止まってしまったように、そこから微動だにできずにいる。
何か……
何か言わなきゃ―――
そう思ったけど、口から出てきた言葉はあまりにもあっけないこの一言だった。
「………そっか。良かったな」
俺の言葉を聞いても千夏は表情一つ変えずに小さく頷き、また鏡に向かった。
それ以上どうすることもできず、俺はしばらくの間その後姿を見守っていたが、鏡の中で千夏と目が合うたびに、胸が締め付けられるように苦しくなり、
逃げるように布団の中に潜り込んだ。
彼女に背を向け、壁を見つめる。
狭いホテルの部屋だって言うのに、俺と千夏の間に開いた距離はとてつもなく長く感じれた。
布団にくるまりながら、思い出したかのようにまた胃の痛みがじりじりとこみあげくる。
苦痛に顔を歪めながらも、どうすることもできず俺は無言で目を閉じた。
千夏と過ごす最後の夜だって言うのに、俺は情けないほど何もできない。
その苛立ちと、あの男の嫉妬心からギリギリと胃を捻られるような痛みを噛み締めながら、早く夜が明けてくれないかと願う一方―――
この不変的な夜がずっとずっと続きますように、
と願っている俺も居た。