EGOISTE
俺の胸に回した手が小さく握られる。
「好き―――じゃないわ」
千夏の声も震えていた。
俺は目を開いて、部屋の中の闇を見つめていた。
千夏が握った拳を再び開けると、俺の胸を軽く押し、俺の腕からちょっと体を離した。
離れていこうとする体を今度は必死になって、抱き寄せることはしなかった。
千夏の表情……考えてることを間近で見たかったから。
彼女の本心と向かい合いたかったから―――
「あたしは
忘れたかったの。
誠人のことを―――」
千夏の口から出てきた言葉は、俺の心臓や胃を刺激する。まるでナイフでつつかれているようだ。
じわりじわりと押しあがってくる痛みに苦痛を感じながらも、俺はそれを顔に出さないように努めた。
「忘れたいのに、忘れられない―――
あたしは
誠人のことが好きなのよ。誠人があたしの中にいっぱいで、追い出そうとしても消えてくれない。
あたしだって
誠人がいい」