EGOISTE


「わっかんねぇな。最初から堕ろすつもりないんなら、そんな回りくどいことしなくてもいいのに」


俺は前髪をぐしゃりと掻きあげた。


鬼頭が俺をちょっと振り返り、苦笑いを漏らした。


だけどすぐに表情を失くすと、ぼんやりと水平線の辺りを見る。





「たぶん堕ろすつもりで日本に来たんだろうね。


でもギリギリのラインで踏みとどまっていたのは―――


旦那さんと


先生の存在」




旦那さんはもう亡くなってるから、歌南さんに何も言えないけど、先生だったら自分を正しい道に導いてくれる。


そう思ったんじゃない?




鬼頭はそう続けて、俺をまっすぐに見据えてきた。


揺るぎないその強い意思を湛えた黒曜石のような瞳に見られると、なんだか鬼頭の言っていることが全てで


こいつの言葉が唯一の正しい答えだと物語っているようだ。



真実なんて歌南しか知り得ないのに。



それでもこいつは人の中身を見透かすような千里眼みたいなものを持っている気がした。










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