EGOISTE
病院に戻った俺は、医師とナースにこっぴどく叱られた。
幸いなのは、千夏の方は同僚がうまくごまかしてくれたお陰でお咎めなしだと言うことだ。
あんなに苦しかった胃の痛みも引いて、3日経って退院すると、その日は歌南がアメリカに帰る日だった。
空港まで俺と水月、それから鬼頭の三人で見送りに行く。
俺はエゴイストをつけ、タバコもマルボロに変えた。
「消毒液くさいなんてもう言わせねぇからな」と鬼頭を小突くと、
「はぁ?あたしそんなこと言った?」としれっと返して来る。
「てめ!お前が言ったじゃねぇか。あれはショックだったんだぞ」
「体でかいくせに、意外に小さいこと気にするんだね」
「ムッカー!」
なんて言い合いしているのを見て、歌南がちょっと笑った。
「あんたたち、漫才でもやったら?」
「「やるか!」」
「ほら、息ぴったり♪」
くすくす笑う横で、弟はのんびりとお姉さまのスーツケースを引いている。
「姉さん、気をつけてね」
「ええ、ありがとう。あんたには色々迷惑掛けたわ」
「まったくだよ」
「歌南さん、赤ちゃん生まれたらまた日本に来てね」
「ええ。もちろん♪次は雅ちゃんかしらねぇ」
そう言って水月をにやにやと見る。
「まだ早いよ」水月が慌てて手を振る。
「そうね。案外こっちの方が早かったりして」
なんて意味深に俺を見てくる歌南。
俺はうんざりして、「そんなことねぇよ」と肩をすくめた。
……たぶん。
全否定はできない、俺。どうなの……