EGOISTE
「誠人、ごめんなさい。待った?」
すぐに千夏が出てきて、研修医は「ちっ」と舌を鳴らして帰って行った。
あいつは千夏が結婚退職することを知っているのだろう。
安心しな。千夏は俺が幸せにするからよ。
忌々しそうに肩を怒らせて帰っていくその後ろ姿に向かって俺は心の中で言った。
―――………
「ねぇ、これどう思う?」
白いひらひらしたレースをふんだんに使ったウエディングドレスを着た千夏が試着室から出てきた。
「おお!♪」
「ちょっと派手過ぎじゃないかしら?」
「全然!!ってかもっと派手でもいいぞ?千夏は世界一可愛いんだから」
俺の言葉を聞いていたアドバイザーの女が、隣でくすくすと笑みを漏らす。
「もうっ!そう言うことさらっと言わないでよ」
千夏は恥ずかしがって、カーテンをピシャリとしめてしまった。
「お似合いでしたよ」
アドバイザーが笑顔でカーテンの向こうの千夏に問いかける。
「本当に?」
カーテンの合間から千夏が顔を覗かせた。
恥ずかしいのか、白い頬がピンク色に染まっている。
「ええ。素敵な旦那さまもそうおっしゃってますし、ね♪」
旦那さま。
なんていい響きなんだ!
じーんと胸に染みた言葉を繰り返していると、アドバイザーは他の社員に呼ばれて行ってしまった。