EGOISTE
「“千夏さん”ってのはまこの彼女?」
味噌汁の椀を持ちながら歌南が聞いた。
「うん。ラブラブだよ。今は喧嘩してるけど」
鬼頭がトーストにかじりつく。
「鬼頭、お前余分なこと言うな」
俺はだし巻き卵に手をつけた。
何で俺が鬼頭や歌南と一緒に朝飯食わなきゃなんねーんだよ。
ぶつぶつ思いながらも、だし巻き卵を口に入れると、思いのほかうまかった。
鬼頭が作ったらしい。(ちなみに歌南は料理が下手だ)
「意外にうまいな」
「意外に、だけは余分だよ」
鬼頭がむくれてオレンジジュースのグラスに口をつけた。
「ほ~んと、おいしいわぁ。雅ちゃんいいお嫁さんになるわよ」
歌南は味噌汁をすすりながら感心している。
お前はもっと料理を練習しろ!
鬼頭はトーストを2口かじっただけで、「ご馳走様」と席を立った。
「おい。まだ残ってるじゃねぇか」
「うん。あんまり食欲ないんだ」
食器を片付けようとしている手を俺が止めた。
「もったいねぇ、お前が食わなきゃ俺が食うよ」
「そ。じゃ、あたし行って来る」
「行くってどこへ?」
「友達んち。宿題してくる」
「おー、行って来い」
エプロンを外すと、鬼頭はさっと玄関口へ向かった。