EGOISTE
ペンギンの水槽を抜けると、深海ギャラリーに入った。
明るかった館内が一気に暗くトーンダウンしている。
リアルな水槽はなく、深海6500メートルの様子をジオラマと三次元の立体映像で再現してある。
可愛らしかったペンギンとは一変してこっちは随分とグロテスクで(とりようによっちゃユニークとも言える)見ていてもあまり感動を覚えなかった。
光と音のない死の世界で、様々に泳ぐ魚たちは俺の目に奇異なものにしか映らなかった。
「変な形してるね」
と水月は鬼頭に話しかけてる。
「生き抜くために……」鬼頭は静かに口を開いた。
俺は隣で鬼頭の言葉に耳を傾けた。
「生き抜くために、形を変えて、姿を変えて日々進化してるんだよ。きっと……」
その言葉が、俺の心の中にすとんと落ちた。
別に生きる死ぬっていう大げさな立場に立たされたことはないけど、こいつが言うと何だかリアルだ。
半年前の鬼頭は―――
恋のために自ら命を絶とうとした。
俺はすぐ隣で「すごいね~」と感嘆している楠もちらりと見た。
こいつも……
どいつもこいつも、恋に命がけだな。
俺は逆立ちしても真似できねぇ。