EGOISTE
深海ゾーンを抜けると、次は“赤道の海”。
碧色の海、降り注ぐ陽光、美しいさんご礁、鮮やかな魚たち。
これぞ、水族館って形だ。
天井が半円形になっていて、一面ガラス張りの水槽。水中トンネルだ。
俺たちはゆっくりとそこを歩いた。
「人魚になったみたい♪」
楠が可愛らしく言う。いや、実際見た目はかなり可愛いんだけどね……
俺は楠の中身の黒さを知ってるから、思わず「けっ」と口に出してしまいそうだった。
「なぁにが人魚だ」俺がぼそりと呟くと、俺の隣を歩いていた水月は苦笑を漏らし、
「まぁまぁ、可愛いじゃないか」と言っている。
水月……お前、楠に痛い目に合わされたんじゃないのか??
お前…心が広い奴だなぁ。
そう言えば水月は彼女の鬼頭にも、生徒の楠にも対等に話を振っている。
律儀っちゃ律儀だけど。
家には歌南がいて、気が抜けない毎日だろうに。
こいつも苦労してんだろうなぁ。
なんてしみじみ水月を見た。
本人はそんなことこれっぽちも考えてないのか、ぼけ~と天井を見ている。
ふいに、水月が俺の方へ顔を向けた。
意味もなくドキッとした。
別にやましいことを考えてたわけじゃないのに。
「まこ、見て。あれ小さくて可愛い」
にこっと笑い、指を天井に向ける。
水月……お前のほうが可愛いよ。
不覚にも、その笑顔を見てそう思ってしまった。