EGOISTE

鬼頭は俺のこんなイケナイ視線にも気づかずに、じっと目の前の水槽を見ている。


よっぽど気に入ったのか、それとも何かおもしろいものでもあるのだろうか。


そう言えば鬼頭が何かに夢中になっているのって見たことがない。


何が趣味なのかも知らなければ、何が好きなのかも分からない。


正直水族館に来て楽しんでるのかどうかも分からない。





まばたきもせず、微動だにしない。


息をしてるのかどうかも怪しいもんだ。


「そんなにじっと見て、イワシが気に入ったのか?」


俺はさりげなく鬼頭の横に並んだ。


「おいしそうだな、って思って」


ガクリ


あっ、そう。鑑賞より食欲かよ。


「今日の晩御飯、イワシの南蛮漬けとイワシの竜田揚げおろしポン酢和えどっちがいい?」


「南蛮漬け」


群をなして泳ぐイワシを前に俺は即答した。


「了解」


「てかお前いつまで俺んちいんの?実家帰ったら?」


鬼頭はイワシから目を離すと、俺を見上げた。


「歌南さんが帰ったら水月の部屋に帰るよ」


あっそ。


てか、まるで同棲してるみたいな物言いだ。



まぁ俺には水月が誰と住もうと関係ないけど。





色んな意味で早く歌南帰ってくれないかなぁ。





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