EGOISTE
“オーストラリアの海”を抜けると、屋外に出た。
白いタイル張りの楕円形の建物があり、その中はウミガメの研究施設になっている。
人工物の小さな砂浜と、海に見立てた水槽がありちっこいのやでっかいウミガメがそれぞれ自由に歩いたり泳いだりしていた。
「先生!あれっ。ちっちゃい。可愛い♪」
楠は手すりから身を乗り出すと砂浜の方を指差した。
「え?どれ?」
俺がちょっとめんどくさそうに顔を覗かせる。
「あれだよ」
そう言って何の気なしに俺の腕を楠は引いた。
半そでからむきだしになった俺の腕に、楠の手のひらの体温を直に感じた。
「ほら、あれだよぅ」
楠は俺の腕に自分の腕を絡ませると、ぎゅっと体を寄せてきた。
別に変に意識はしねぇけど、ちょっと無防備って言うか……
これが俺じゃなく、年頃の男だったら楠はその気じゃなくても勘違いするって言うか。
「ぁあ、あれね。確かにちっちぇえな」
それだけ言うと、俺はやんわりと楠の体を引き離した。
一歩下がって楠の後ろからウミガメの水槽を見下ろす。
楠がふいに振り返った。
柔らかそうな茶色の長い髪が揺れて、甘い香りがふわりと香ってきた。
「さっすが、交わし方も大人だね、先生は。それとも興味がないだけ?」
ちょっと挑発的に見上げるその表情は鬼頭がたまに見せるそれと良く似ていた。