EGOISTE

楠 明良は楠 乃亜の血の繋がらない兄貴だ。


二人は長い間、きょうだい以上の愛情を抱いて一つ屋根の下で暮らしていた。


互いに気持ちを伝えることもなく、叶うはずもないと思ってきょうだいと言う仮面を必死にかぶりながら。


それが先に決壊したのは、楠 乃亜の方だった。


楠は兄貴に伝えられない歪んだ愛情から自殺を試み、鬼頭、水月(ついでに俺)をも巻き込んで大掛かりな勝負に出たわけだ。


勝負は楠の勝利。


楠 明良は乃亜の気持ちに応えることになって、今は俗に言う“ラブラブ”な二人な筈だが。







「お兄と別れるかも」





楠の伏せた顔から洩れた言葉はあまりにもそっけなく、淡々としていた。







俺は正直今まで死にたいほどの恋愛に溺れたことがねぇから、楠の気持ちなんて計り知れないけれど、でも命を懸けてまで愛しぬいた男をそんな簡単に手放すのか?



「何か……あったのか?」


色々な考えが巡ったが、出てきた言葉はおざなりだった。






楠の手すりを握った手に力がこもったのが分かる。


相当強い力で握ってるのだろう、白い手に青白い血管が浮き出てきた。







「お兄に、浮気された」













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