EGOISTE
「は……?浮気……?」
思った以上に間抜けな問いかけをしてしまった。
慌てて口を押さえる。
言ってはいけない何かが口から出たようだった。別にいけないことを聞いたわけじゃないけど。
「男って何でそう!?最初は優しかった。好きだって言ってくれた。何度も、何度も……
でも平気で裏切るんだから」
やんなっちゃう……
最後の言葉は人工的につくった海の波音でかき消された。
「待て……浮気って…。その……確証はあるのか?もしかしたらお前の勘違いかもしれないぞ」
俺は宥めるように、声を和らげて楠の肩を軽く叩いた。
「勘違いじゃないよ。見たもん。おんなじバイトの人と抱き合ってるのを。
それでも間違いであってほしいと思ってケータイ見た。そしたらあたしの知らない女の人の名前のメールがいっぱいあった」
楠 明良もバカだな。もっと上手くやれよ!
俺は額に手を当てた。
いや…俺は浮気した経験がないから、何が上手くで、何が下手なのか分かんねぇけど。
「それで、お前は楠 明良に問い詰めたのか?」
楠は勢い良く振り返った。
唇を真一文字に結んで、俺の方を睨み上げてる。
大きな瞳に涙の粒が溜まっていた。