EGOISTE
ゲ
俺は反射的に一歩引いた。
俺は女に泣かれるのが、苦手だ。まぁ俺じゃなくても大半の男はそうだと思うが。
それも俺が原因じゃねぇのに。
「問い詰められるわけないじゃん。事実を知っちゃったらあたしどうすればいいの!?」
どうすればいいって……そんなこと俺に聞かれても…。
俺が言いよどんでいると、楠は大仰にため息を吐いた。
「ごめん…。先生に言ったってどうしようもないよね。
でも、何で男って浮気するの?何で平気で裏切るの?男が信じられない」
楠は俺に聞いてるんじゃない。誰でもない、自分自身に問いかけてるんだ。
俺は手すりに両手をつくと、ウミガメの砂浜を見下ろした。
「まぁ、あれだな。生物学的な理由―――男は子孫を残すためより多くの女を求める、とか。
あと気持ちの持ちようの違い―――心と体は別もんだとか。
理由は様々だろうけど、信じられないなんて悲しいこと言うなよ。
世界は楠 明良だけじゃない。中にはお前だけを愛してくれる、お前だけを見てくれる男がいるはずだ」
俺はちらりと楠を見た。
涙がこぼれないようじっと耐えていたのだろう。
今になってやっと大きな目から涙が溢れて、楠の白い頬をそっと涙が伝った。
「先生ってやっぱ優しいね。
でもあたし……お兄がいいの。お兄しかいらない」
もう答えは出てるんじゃねぇか。
俺はそう言ってそっと楠の頭を撫でた。