EGOISTE
浮気心
水族館の館内を一周し終える頃には楠と随分打ち解けた気がする。
出入り口のゲートのベンチに座って水月と鬼頭を待つ。
「とりあえずあれだな?一発ぶん殴っとけ」
俺は隣に座った楠を見た。
楠はもう泣いてはいなかった。
「堪えないと思う。あたしひ弱だから」
「自分で言う?じゃ、あれだな『今度やったらちょんぎってやっぞ』これでいいんじゃね?ビビッてできねぇよ」
「怖っ。何それ。もしかして先生言われたことあるの?」
「ないわ、ボケ。俺ぁこう見えても浮気は一回もないっつーの」
浮気したらやってやる、って歌南に言われたことはあるが……
「あ~あ、あたしも神代先生みたいな人を好きになれば良かったな。考えたら、昔からお兄は女をとっかえひっかえ…」
「ぁあ、俺も女だったら絶対あいつを選ぶな」
「先生が女だったら?すっごい悪女になりそう。そんでもって神代先生優しいからすっごい振り回されそう」
楠はふふっと笑った。
なんかそれ、俺と歌南の関係みてぇ。
そこでふっと気づいた。
「お前の兄ちゃんが浮気してるかもって鬼頭は知ってるのか?」
「……うん」
楠はぎこちなく頷いた。
「で、あいつは何て?」
楠は俺をちらりと見ると意味深に目を細めた。
「ちょんぎってやれって」