EGOISTE
帰りは水月が運転を代わってくれた。
後部座席はしんと静まり返っている。
行きはあんなに賑やかだったのにどうしたものか、と不審に思い後部座席を振り返ると二人は寄り添って眠っていた。
「ほんとガキ」
「でも楽しかったよね」
運転席の窓を開けて、水月はハンドルを片手で操作しながらタバコを取り出した。
「俺は疲れた。子守はもう勘弁」
俺も助手席の窓をちょっと開ける。
ちょうどヤニ切れだ。
ジッポライターの蓋を開けて火を点けようとしたけど、フリントホイールが虚しく空回りしただけだった。
「ちっ。オイル切れかよ。なぁ水月、火……」
「どーぞ」
最後まで言い切らないうちに、水月の100円ライターを握った手がにゅっと伸びてきた。
気が利く奴。
俺は靴を脱いで座席に片足を乗せると、タバコに火を点けた。
飲み屋でも家でもこの格好をよくする。
千夏に「お行儀が悪い」といつも咎められるが、なかなか癖は直らないんだよなぁ。
フロントガラスから見える道路は平坦だけど、車の量は多い。
前の車のブレーキランプが点灯した。
信号か?思ったと同時に水月がブレーキを踏んだ。
車がゆるやかに停まる。
ふいに運転席から水月が身を乗り出してきた。
びっくりした。
だって不意打ちだったから。
姉弟だってこと忘れてた。
一瞬水月が歌南に見えた。
「まこ」
小さく囁いて、俺の手からライターをするりと抜き取ると、
「行儀悪い」
ちょっと苦笑しながら、俺の膝を下に降ろした。
すぐ近くにあった水月の顔が遠のく。
浮気……かぁ。