平安なあいつ、
夢現株式会社
眠たそうな目に
小さすぎる口
ふっくらとした頬といえば聞こえはいいけれど、
残念ながら春子はふくよかな体型をしていた。
春子は長い真っ直ぐな黒髪を風になびかせながら、ほどよく都会的な街を闊歩していた。
澄んだ冬の青空のもと
私は一人、家路に急ぐ。
何もやることなんか、ないんだけれど。
歩くだけで、まとわりついてくる視線が気持ち悪くて、私はいつも早歩きだ。
人混みの中、突然、
「ねぇね~~!そこの美人のお姉さ~んっ!!」
いかにも、なチャラ男に後ろから肩を抱かれた。
「よかったらさ、お茶でも……」
瞬間、迷惑そうな顔をした私を見た
だらしなく笑っていた男の顔が引きつるのがわかる。
いつものこと、
後ろ姿だけを見て声をかけられる。
顔を見たら驚いて逃げられる。
今日だって、そうだ。
いつものことだ。もう慣れた
「はあ~~?!
なんかまじキモいんですけど~。
お前ナニ??!
調子のっとんか
ああ?なんとかいいやがれ!」
いつも、じゃない。
これはいつものことじゃない。
キレた男は理不尽にも私を突飛ばした。
「美人なお姉さんって言ったんだよ。
何勘違いしてんだよっ!!!
死ね!!!!」
なんて、理不尽。
あなたが勝手に肩を抱いたのに、
男が大きな声を出すから、
私を突飛ばすから、
皆が立ち止まって私たちを見ている。
見ているだけじゃなく、助けて欲しい。
だけどこんな子を助けてくれる人なんて、やっぱりいなくて。
注目されるのが恥ずかしくなったのか、男は人集り(ひとだかり)を割って、去っていった。
私は呆然として動けないままだ。