平安なあいつ、
「あら!!?
ねぇ、あの子丁度いいんじゃない??!」
騒ぎを聞いたらしい品の良いスーツを着た男女が私を指差している。
興奮した様子の女の人は、大きな目に高い鼻、髪は軽くウェーブがかかっている。
彼女がそこに佇めば、私とは違う意味で注目を集める。
さらに彼女を目立たせているのは傍に控えるように立っている男性だ。
彼はその女性の執事のようなものだろうか。
年老いた彼の存在は彼女を『お嬢さま』と想起させるには打ってつけだった。
そして彼らは、理不尽に怒鳴り散らされた哀れな私に歩み寄ってきた
この3人の組み合わせはまずい。
しかも一人は地面に這いつくばっている。
私だ。
いつもは忙(せわ)しなく時間の流れるこの場所で、私たちは行き交う人々から好奇の目を向けられる。
視線が痛い。
「あの!こんにちは。
少しあなたとお話がしたいの。
ここじゃ落ち着かないからあのカフェでお話しませんか?
あ!お金の心配はしないでください。
こちらでお出ししますので」
彼女は手を差出しながら一息にそういい終えると少し緊張した面持ちになった。
私はというと、大勢の目線から逃れたくて、
慌てて大きく頷き、彼女の手を借りた。