気まぐれ社長の犬
契約完了
晴れた春の日の午後。
暖かな日差しが降り注ぐ中、私は大きな屋敷の前で立ち止まった。
「ここが今日からお世話になる場所か…。」
広く大きな門に圧倒されつつも、インターホンを押した。
軽やかな音がして、使用人らしき女性が出る。
「はい?」
「今日からこちらでお世話になります花月と申します。」
「花月様、お待ちしておりました。お入り下さい。」
門がゆっくり開き、中に誘われるがそこからは玄関が見えない程の庭園が広がる。
美しく手入れされ、季節の花々が咲き乱れる庭園。
「…幸せそうな家。」
羨む言葉がぽろりと口をついた。
庭園を散策し、ようやく玄関に着くともう一度インターホンを押した。
すぐに扉が開き、中からメイド服の女性が現れる。
チョコレートブラウンの髪を後ろでまとめた、20代後半ぐらいの女性。
彼女は私を見つめると、柔らかに笑う。
「花月様ようこそいらっしゃいました。旦那様がお待ちです」
彼女の後をついて行くと、一つの扉の前で立ち止まった。
「こちらでございます」
女性はノックして扉を開けた。
「失礼致します。花月様がいらっしゃいました。」
「ああ妃和ちゃん。よく来てくれたね。」
椅子に座っていた男性は、包み込むような優しい笑みを浮かべ立ち上がった。
40代とは思えぬ若々しく整った顔立ちに、モデルと言われても納得のスタイル。
それで日本有数の大手企業の社長というのだから、天は二物を与えるのだと実感する。
「風間(カザマ)さん初めまして。今日からお世話になる花月妃和(カゲツヒナ)です」
「初めまして。話しはお祖父様から聞いてるね?」
「はい。私は響城様の婚約者となり、社長になられるまではボディーガードとして響城様をお守りすればよろしいのですよね?」
「ああそうだよ。だから今日からはお父様って呼んでね?」
無邪気に笑う雇い主の姿に、断る事もできず少しの間を置いて承諾する。
「…はいお義父様。」
「じゃあ早速だけど、響城の部屋まで案内するよ」
私は風間さんの後について部屋を出た。