気まぐれ社長の犬
そう思いながらそっと響城さんがいる側の壁にもたれてみる。
明日になったらここを出て、もう響城さんとこんな風に接することはないんだ……
さみしい…けど少しの間でも幸せな生活ができたんだからよかったよね。
響城さんは私なんかと婚約しない方がいい。
きっと私は人を好きになるなんてできないから。
でも……
「今まで出会った人の中では一番好きかもしれない」
なんて、今さら言ったって仕方ないよね。
よし、片付け始めよう!!
来た時のようにキャリーバックに服を詰めていく。
お母様にもらった物は置いておこう。
一通り片付け終わって部屋を見渡すと、一見さっきと変わらないように見えた。
私がいなくなってもそうなんだろうな……
ベッドに座り、背中から布団に倒れこむ。
はあー…家に帰ったらまた道具か
次に会う時私は、響城さんにみんなと同じように作った笑顔を向けるんだろうな。
そういえば響城さんには本当の笑顔を見せてた気がする。
響城さんの行動に驚かされたり笑ったり、楽しかったな……
ってあれ?
胸が急に苦しくなって、涙が頬を伝った。
おかしいな…私なんで泣いてるんだろう。
ただの道具から番犬になれた。それがまた道具に戻るだけなのに……
いや違う。そんなことよりも私が悲しいのは―――
だめ…っ気付いちゃいけない。
もう寝よう。明日は忙しいだろうし。
私は自分の気持ちに気づかないように、ぎゅっと目を閉じて眠った。
涙や気付き始めた感情から、私は背を向けたんだ。