気まぐれ社長の犬

「風間さんは妃和を抱かなかったらしいですね?こんなに綺麗な体を抱かないなんて本当にもったいないことをしましたね。妃和はベッドの上ではもっと艶やかに鳴くのに」



そう言って咲本は妃和の胸に手を滑らせる。


触るな……

それに妃和?何呼び捨てにしてんだよ。

…いや、それよりもこいつは妃和を抱いたんだ。


俺はギュッと拳を握り締める。



「それでは風間さん失礼します。妃和、行こう」


「はい…風間さん、さようなら」


そう言った妃和の顔は、すごく辛そうに見えた。


なあ…何でだよ?
そんな辛そうな顔するなら婚約なんて止めて帰ってこいよ!!

そんなに家に帰りたくなかったのか?


今日言ってた親父の言葉が頭によみがえる。


“自分に素直にならないと二度と手に入れられない物もあるんだからな?”


本当そうだよ……

あのパーティーの日、俺が妃和と婚約してれば妃和は咲本のところに行くことはなかったのに。


くそ…妃和…!!


俺は会場を出て麻生のいる車に乗った。



「ずいぶん早いですね。どうしたんですか?」


「気がのらない。出してくれ」



麻生はそれ以上何も言わず車を発進させた。


俺は家に着くとベッドに倒れこんだ。


くそ…俺、なにやってんだよ…!!

どんなに後悔しても
もう遅いんだ……


大切な犬の首輪を外したのは俺だ
だから妃和が次に誰に飼われようが結婚しようが、もう俺に口出しする権利はないんだ―――



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