気まぐれ社長の犬

次の日からの俺はもうぼろぼろだった。


ぼーっとしてばかりで仕事なんか手につかないし、何もする気が起きない。



「…長…社長!!」


「あ?」



はっと上を見ると高槻が書類を持って立っていた。



「どうしたんですか?今日はぼーっとしてばかりですが」


「別に何でもない。何か用か?」

「ああ、新しい商品開発についての資料です。見ていただけますか?」


「わかった。置いといてくれ」


「…花月さんのせいですか?」


「あ?なにがだ」


「咲本さんにとられたのがそんなにショックだったんですか?」


「は!?お前何でそれ…!!」


「実は昨日私もパーティーにいたんですよ。社長、すごくショックそうな顔して出ていかれたので」


「はぁー…見てたのかよ」


「ええ…よろしいんですか?」


「よろしいわけねーだろ!!…でもどうにもできねえんだよ」


「珍しく弱気ですね」


「だって俺にはもうあいつを呼び戻す権利なんてねえんだから仕方ないだろ」


「社長らしくないですね。花月さんに特許なんてあるんですか?」



そう言って高槻は笑う。



「でも……」


「もたもたしていたら本当になくしてしまいますよ?結婚してしまったらもう取り戻すのは難しくなってしまいますから。いいんですか?後悔しても」


「もう後悔してるっつーの」



でも…今ならまだ間に合うかもしれない。

今動かなかったら
もっと後悔する……

素直になれ俺…!!



「ちょっと行ってくる!!」


「行ってらっしゃいませ」


俺は会社を飛び出した。

麻生はいないからタクシーを停めて咲本モータース本社へ向かった。



「何も考えずに行くなんて
面白い人だ……。もしもし
咲本モータース様でしょうか?
風間グループの―――」



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