気まぐれ社長の犬

外に出るとすぐタクシーを止め、妃和を押し込んだ。



「風間グループ本社まで」



そう伝えると車は走り出した。



「…よかったんですか?殴ったりして」


「むかついたんだから仕方ねえだろ」


「さすがバカですね」


「あ?うっせえな。てめえがあんなやつのとこ行くからだろ」


「仕方ないじゃないですか。突然さらわれたんですから」


「逃げる時ぐらいいくらでもあっただろーが!!」


「逃げる必要なんてなかったんです!!」


「はぁ!?何でだよ!!お前もしかして本当にあいつのこと…」


「そんなわけないじゃないですか!!」


「じゃあ何でだよ!!」


「あっあのー…少し声を抑えていただいていいですか?」



気まずそうに後ろを向く運転手と目が合う。



「すみません……」


「…私が咲本さんから逃げなかった理由は、逃げる理由がなかったし取り引きをしたからです」


「は?取り引き?」


「拉致されて、気付いたら咲本さんの家のベッドに私はいました。手足に手錠をかけられて動けない私に、咲本さんは婚約を持ちかけてきたんです。もちろん断りましたよ?だけど断ったら響城さんを殺すと言われました」


「はぁ!?なんだそれ」


「別にそれだけが理由じゃありません。私は家に帰りたくなかったから咲本さんを選んだんです。それに私、響城さんに恩返しできなかったから…だから…少しでも役にたてるならいいかなって思っただけです」


「はぁー…お前本当バカ。俺よりバカ」


「なっそんなことありません!!
響城さんこそどうして私を連れ出したんですか?私のことなんて放っておけばよろしいじゃないですか。もう関係ないんですから」



はっ…放っとけるなら苦労しないんだよ。



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