気まぐれ社長の犬
二人が出て行って一瞬の沈黙の後奏女さんはため息を吐いた。
「わかりやすいよねーお兄ちゃんたち。もう無理って分かってるくせにああやって笑うの」
「…知ってたんですか」
「当たり前でしょ。自分のことぐらい自分で分かるわ。でも奏女ばかだから、どうしても諦められなくて…お兄ちゃん困るって分かってるのにね」
奏女さんは、奏希さんと似た悲しい笑顔をする。
「そんなにテニスがしたいんですか?」
「うん…ていうか、悔しいんだ。自分の体が弱っていくのもみんなと一緒に学校に行ったりテニスをしたりできないことが」
「そうですか……」
「どうせ長くないんでしょ?なら学校に行きたいよ…それでみんなとテニスしたい」
「…学校は無理かもしれないけどテニスなら、させてあげようか?」
「え!?」
奏女さんは驚いた顔で私を見る。
「部活、連れてってあげる」
「はぁ!?何言ってんのよ!!そんな嘘吐いて…できないことを言わないで。奏女、そんなに可哀想?」
「違います。私は、どうせ死ぬならやりたいことを残したまま死ぬよりもそれを思い出にしてから死んだ方がいいと思うだけです」
「……」
「みんないつかは死にます。
ただそれは、色んな思い出を
作ってからです。色んな欲望を
満たし、それから死ぬんです。
でもあなたは違う。まだまだ
色んなやりたいことが
あるでしょう?なら、私がその
欲望を叶える手伝いを
しましょう。きっと1つ叶えてもまだまだ欲望は尽きないでしょうが…できる限りのことをします」
私はそう言って奏女さんに笑う。