気まぐれ社長の犬
「ありがとうございます」
私はお金を払って奏女ちゃんと病院の中に入った。
病室の前には響城さんと奏希さんがいて、私たちを見つけると駆け寄ってきた。
「奏女!!お前なにしてたんだよ」
「ごめんなさい…テニスの試合、応援に行きたくて…」
「どんなに心配したと思ってんだよ!!妃和ちゃんも、どうしてこんなことしたの!?」
「すみません私が勝手にしたんです。奏女ちゃんは怒らないであげてください」
「違っ!!」
「私が奏希さんたちの気持ちも考えずに勝手にやったただの偽善です。本当にすみませんでした」
私はそう言って頭を下げた。
「っ…奏女は先生に見てもらってきて」
何か言おうとした奏女ちゃんは奏希さんの声で止められ、看護師によって診察室に向かって行く。
「妃和ちゃんは最近会ったばかりだからわからないかもしれないけど今の奏女の状態はよくないんだ」
「はい……」
「次発作が起きたら命の保証はない。明日死ぬかもしれない、そんな状態なんだよ。妃和ちゃんが優しさでやったことが奏女の命を奪うかもしれないんだ」
奏希さんの口調は落ち着いているけど、顔も声も真剣で厳しい。
「はい…本当にすみません」
「…でも俺には怖くてできなかったことだから…ちょっと感謝してる」
「えっ!?」
驚いて顔を上げると、悔しそうに笑う奏希さんがいた。
「俺は奏女の、あんな小さな願いさえ叶えてあげられなかった。だからありがとう」
意外な言葉だった。
絶対すごく怒られて、もう会えないと思ってた。
なのにありがとうだなんて……
「奏女は楽しそうだった?」
「はいすごく楽しそうでした」
「ならよかった……」
優しい顔をする奏希さんからは、妹を本当に大事に思ってることが見てとれる。