ワンダフルエラー
「まだ、学校。さっきまで仕事してた」
電話の向こうで、感嘆の息が聞こえた。
『まじで。そりゃご苦労なこった。なあ、お前計数の方も取りまとめしてたよな』
「え、うん。真帆から確認入ってたけど?」
『悪ィ、俺さ、お前に引継ぎの仕事まだ持ってんだ。
ほら、あの数字纏めたやつ」
「…はあああ!?それ、あんたが持ってたの?」
わたしの声に、隣でくつろいでいた十夜の肩が驚きで小さく跳ねた。英二は、電話の向こうで悪ィ悪ィとものウエハースよりも軽い謝罪を繰り返す。
―にゃろう…。その仕事がわたしに回ってこないお陰で全体に支障を来たしているというのに。
「馬鹿。あんたんち、桜団地の近くよね」
『そうだけど』
「今から行く」
『まじかよ』
驚きの声が上がったが、それを一蹴する。また連絡する、そう英二に伝えて通話を切った。
「今の、英二?」
「そう。あの野郎、仕事持ちっぱなしにしてたのよ。信じられない。今から取りに行くわ」
給水塔から落ちない様に、ゆっくりと立ち上がってスカートについた汚れを払った。
「十夜も、もう帰るでしょ?」
十夜は、少し考える素振りを見せたあと、小さく首を横に振った。
「俺、もう少し残ってく。まだ纏め切れてない企画書だけやっておきたいし」
「そうか。うん、わかった。じゃあまた明日ね」