ワンダフルエラー

「もう、冗談はやめなよ」

「冗談じゃないし」


十夜が、わたしとの距離をさらにもう一歩縮める。壁を背にしているわたしには逃げ場が無い。

十夜の長い指が、わたしの唇をなぞる。


そして、


あの月明かりの下でした、攫うようなキスじゃなくて、もっと、何もかも溶かしてしまうような深いキスをわたしにした。


「…っ、ふぅ…っん」


息が、出来ない。


「ッ……ッゃだ!」


出来る限りの力で、十夜の体を引き離そうとする。

けれど、力の差は歴然としていて、それは何の抵抗にもならなかった。


離れた唇。

わたしは十夜を睨みあげた。


「…最低。なんでこんなことするの」



十夜はその瞳に何もうつさないで、ただ無言のままわたしを見つめている。
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