夕闇の旋律
ばさっと音がして、悠矢は詩音を見た。

ぞくっと背中が震えた。

詩音は傘を落としたらしい。

だけど詩音はそれを拾わず、積もれとでも言うように腕を前に差し出した。

悠矢は見とれた。

詩音は白かった。

髪の黒がはっきりわかるくらい、怖いくらいに白かった。

詩音の髪に、肩に、腕に、手のひらに、膝に、足に雪が降り積もる。

そして、ゆきのようになめらかで白い肌に雪が触れ、溶けていく。

いつもは普通の女の子だ。

なのに、どうしてこんなに綺麗に見えるんだろう。

悠矢は声が出なかった。

とにかく圧倒されて、見とれ続けていた。

詩音が動いた。

雪の積もった腕を引っ込めて、こぶしを胸に当てて、歌った。

魔法が乗った、誰も聞いたことがない、即興曲。

どうしようもなく魅せられる、雪の歌。

高らかに、詩音は歌った。

そして、たぶんこのとき、悠矢は詩音に完全に囚われてしまったのだろう。

だって、そのときから、悠矢は詩音から目が離せなくなってしまったのだから。
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