夕闇の旋律
「ごめんなさい」

歌い終わった後、詩音は真っ先に悠矢に謝った。

「え、え?なんで?」

「私、なにかに対してすごく感動したり、感情が動かされると、歌いたくて歌いたくて、しょうがなくなって、他のことが見えなくなっちゃって……」

しどろもどろに詩音は言う。

悠矢は苦笑して、詩音に積もった雪を払い、落ちた傘を渡した。

「いや、久しぶりに詩音の歌が聞けて良かった。それと……」

悠矢はそこでちょっと迷った。

言ってもいいのか、悪いのかがわからなくて。

だけど、悠矢は決心して聞くことにした。

「今のが、魔法?」

雪は音を吸収して、声すらいつもと違って聞こえる。

それなのに詩音の歌ははっきりしていて、とても綺麗に響いていた。

「それは魔法の副作用みたいなの。この歌の本当の魔法は、形成だよ」

ほら、と詩音は手のひらに乗せたものを悠矢に見せた。

それは、耳も眼も全てが雪で出来た、雪の結晶の模様の浮かんだ雪うさぎだった。

「すご……こんなのも作れるんだ……」

「たぶん、形成の魔法の中でも相当出来がいいよ、これ」

さらっと詩音が言った。

そうか、と悠矢は納得した。

詩音は魔法使いなんだな。
< 28 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop