夕闇の旋律
「もうっどうしてこんなことに……」

入院生活も一ヶ月も経つと飽きてくる。

あの後高熱を出した私はしばらく生死の境目を彷徨っていたらしく、三ヶ月ほど入院することになっていた。

病院内では携帯は使えない。

詩音はお母さんにノートパソコンを持ってきてもらおうと、病院の公衆電話を探していた。

「あ、あった」

公衆電話が三つほど並んでいる。

そのうち一つは、同じくらいの年頃の男の子が使っていた。

詩音はその隣の公衆電話を使うことにした。

受話器をとったそのときのことだった。

「寝てろ」

その、声は、奇跡のような声だった。

中音域の、なめらかな、柔らかな、心地の良い音。

詩音は受話器を落とし、そのままずるりと倒れこみ、眠りに落ちていった。

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